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2014年6月26日 (木)

『ノルウェイの森』の中国語訳とオリジナルの違い

中国語圏でもファンの多い村上春樹ですが、大陸(中国本土)版の小説を読むと、ずいぶん日本オリジナルの文章と雰囲気が違うことに気付きました。
このエントリーでは、『ノルウェイの森』第一章について、日本語版と3つの中国語版を比較俗するとともに、中国でのどう受け止められているかを紹介しています。

■ 3つの中国語版『ノルウェイの森』

夏休み中の中国語の独学の一環として、中国語版『ノルウェイの森』を精読することにしました。

手元にあるのはずいぶん昔に購入した(そのわりにあまり読み込んでいない)台湾版のテキストだったのですが、せっかくなので大陸版を入手してそちらを読むことにしたのです。

・・・ん?なんだか雰囲気が違う。

大陸版『ノルウェイの森』は、なんだか堅苦しいというか・・・オリジナルの飾り気のない文章と違うように感じられました。
もちろんシナリオのプロット自体はほとんど変わらないのだけれど、それを文章でどう表現されるか、が小説の醍醐味なわけで、言語の違いがそのポイントに大きく影響するのは避けられないわけです。

中国でも村上春樹は大人気で、新刊が出ると(反日報道があるくせに)書店でドカンと平積みされます。
それを購入する中国の村上ファンは中国語に翻訳されたものを読むわけで、そう考えると「日本人が日本語で読む村上春樹」と「中国人が中国語で読む村上春樹」は、実際にはイコールではないのだと気付きます。

一方、一口に「中国語版」といっても、実は複数の翻訳版が存在します。
販売される場所別に分けると、「大陸版」、「香港版」、「台湾版」の3種類です。
それぞれに翻訳者が異なります。

翻訳者が異なると、翻訳後の文章の雰囲気も違います。
このエントリーでは、それぞれの違いについてご紹介しようと思います。

翻訳者ごとに色分けをして整理しています。
見易さを考慮し、PDFを作成したので、詳しくは下記リンクをご参照。

(PDF:『ノルウェイの森』第一章 翻訳比較)

■ それぞれの翻訳者の簡単な概要

今回まとめた3人の翻訳文についての僕の印象。

大陸版:装飾が多い。四字熟語が多い。翻訳者の解釈を書き加えている(!)。
香港版:装飾が多い。
台湾版:シンプルで、日本語版に最も近い雰囲気。

僕がとくに「おいおい」と思ったのは、大陸版に見られる「翻訳者の解釈」でした。

たとえば・・・

  原文 : 失われた時間、死にあるいは去っていった人々、もう戻ることのない想い。
  翻訳 : 無駄に過ごした日々、死にあるいは去っていた人々、取り戻すことのできない後悔。

原文にはどこにも「無駄に過ごした」とは書いていないし、「後悔」とも書いていません。
そりゃぁ実際のストーリーには一部「無駄」な時間もあったし「後悔」もあるけれど、『ノルウェイの森』で描かれるストーリーはそうではない部分が多くあるのだし、そこの物語があるからこそ成り立っているわけです。
それを勝手な解釈で、しかもこんな軽いコトバで表現するなんて・・・。

■ 大陸版のふたりの翻訳者

そんな大陸版翻訳者の林さんは、これまで多くの村上春樹作品の翻訳を手がけてきました。

一方、最近はあらたな翻訳者、施さんが登場しています(今回の翻訳比較PDFには記載ナシ)。
最近の『1Q84』や『田崎つくると・・・』などは、いずれも施さんが翻訳を手がけており、林さんは仲間はずれにされてしまっているような雰囲気です。

このふたりの翻訳をめぐる評判は様々あります。

  大御所、林さん : 厚化粧。「林節」が効き過ぎている。
  ニューカマー、施さん : 原文の雰囲気を求めすぎ、味気なく流暢さが足りない。

一方、最近翻訳書がめっきり減ってしまった林さんの翻訳も、なお根強い人気があります。
多くの中国人読者たちの「村上春樹作品像」は、林さんの翻訳を通じて形作られていて、昔からのファンたちは「やっぱり林さんの翻訳がいいよ。施さんは林さんには負ける」などと評論する人がいるようです。

そんなあるファンにいわせると「僕は小さい頃先に林さんの翻訳を読んで、次に頼さん(台湾版)を読んだよ。林さんはオリジナルをさらに洗練させたもので、頼さんはオリジナルに忠実だね」。
『オリジナルをさらに洗練』という行為が、翻訳書で起きていいのかなぁ??

ネットで見かけた林さんの翻訳論。

「文学翻訳は直訳ではない。
 訳文が翻訳調に読み取られるようにしたくない。
 村上春樹は自身の翻訳に比較的寛容で、ある英語版は1章まるまる削除されたが、村上春樹は比較することはなかった」

ある中国の大御所・・・川端康成や三島由紀夫を翻訳している・・・は、こういいます。

「これはいわゆる翻訳スタイルの違いだ。
 翻訳とは再創造で、誠実、達成、雅美を追求する。
 しかしそれはオリジナルの基礎の上に再創造されるものだ。
 再創造は、独創ではないのだ」

僕は、翻訳書においてはかぎりなくオリジナルに忠実にあるべきだと考えます。
言語の違いから、ニュアンスに変化が出てしまうことは仕方がありません。
でも独自の解釈を書き加えるようなことは、おかしいと思います。

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    僕はコールセンターでオペレーション部門のマネジャーだった元サラリーマンです。2013年より上海で中医学を学んでいます。
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